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それは昨日(3日目)の出来事である。
「あれま、旦那……顧問の旦那じゃないかい?」
見渡す限りの砂地の中、日陰を探して辺りを見回していた時のことである。
艶やかな女の声に蘇芳は振り返る。
……誰も居ない。
気のせいか、と歩を進める。
「ちょいと旦那…アンタ、あのボケパンダと同じ事するんじゃないよ!」
声は足元からするようだ。
視線を落す。
砂まみれの岩の上に彼女はいた。
着崩した藤色の着物、異様に白い肌色に差された紅、少しほつれた長い黒髪、そして、呪術的な意図を感じる『百』と書かれた布の面……掌サイズの妙に色っぽい女がこちらを見上げていた。
「あぁ…お前さんは、元・格闘部の毒……モモコだったか?」
「そんな小娘みたいな名前、よしておくんなさいよぉ!お百って呼んでくださいって!」
毒百足の化生であるその女は照れて、びしばしと蘇芳の脛の辺りを叩いた。
蘇芳は無言で脛をさすりながら、女の隣に腰掛ける。
「で、お百……お前さん、こんな所で何を?」
まさか会社関係者に会うとはおもわなんだ、と蘇芳が呟く。
「アタシは傷心旅行って奴で、いい男を捜してるんですヨ♪」
ちょいと前までパンダの旦那も一緒にいたんだよ、とのモモコの言葉に、やっぱり港で見かけたパンダは彼だったのか、と蘇芳は納得する。
「って、旦那こそ……片目どうしちゃったんだい?アンタ本当に顧問の旦那だよねェ?」
「そりゃそうさ。片目がなくとも俺様は俺様だ。」
「でも、旦那は確か……」
「桜の木に囚われているはずじゃないのかってか?」
モモコの疑問を受けて苦笑する。
彼女の両目は面に隠れて見えずとも、訝しげに小首をかしげる仕草で、何故自分がここにいるのかを不思議がっているのはよくわかる。
「まぁ、大人の事情って奴でね、此処にいる。」
「おや、じゃあ、奥さんも此処に居るのかい?」
「いや、残念ながら居ない。って言うか、逢えない条件で俺様は此処に居るんだよ……だから、知らせてもいない。」
「逢えないって…旦那、アンタ、大変だネェ。だって、超ベタ惚れだったじゃないか。大丈夫かい?」
モモコの言葉に首をすくめる。
「じゃあ、双子のお坊ちゃんやお嬢ちゃんとも…お子さん達とも逢えないのかい?」
「……子供……」
蘇芳は少しだけ金の猫目を眇める。
――そうだ、あの時、破璃は身ごもっていたはずだ。
子供達が、生まれてくるのを楽しみにしてた……名前も付けた。
囚われていた時、まどろみの中、破璃が子供達と訪れたような気はする。
ただ、全てが夢の中の出来事のようで、実感がまるでないのだけれども。
「そういう縛りはなかったから、逢えない事はないのかなァ?」
蘇芳は暗い紅い髪をかき混ぜながら応える。
「でも、どのツラ下げて逢ったらいいかわからんから……今は逢えんなァ。」
「……二人とも、もうモノの道理はよくわかる年頃だよ。人の子の年にしたら、18か19だろうしネェ。」
「へぇ、もうそんなに経つか……ずっと半覚醒みたいな状態だったから、時間の感覚が狂ってるな。」
「お嬢ちゃんはやたら喧嘩っ早い娘でネ、お坊ちゃんは旦那に似てイイ男だよ。旦那よりもイイ男かもしれないネェ。」
モモコは煙管を口元に持っていきながら微笑む。
「奥さんは相変わらず別嬪さんだよ。旦那と結婚したセイかね、年の取り方が若干遅いみたいだネェ……」
いつまでも若いのはいい事だよ、と言いながら、モモコは煙を吐き出す。
だが、蘇芳の表情は若干曇る。
――彼女と同じ人間になりたいと願った代償に、彼女は人間の枠をはみ出てしまったのだろか?
他愛もない話を、そのあと少しした。
そうしてモモコは、旦那といるとイイ男が見付からないから、と言って去っていった。
蘇芳はその後も岩に腰掛けたままだった。
――日が暮れかかった頃、心配して探しにきたセツリに声をかけられるまで。
<その後の『モモコ』はE-No.892で…>
視線を落す。
砂まみれの岩の上に彼女はいた。
着崩した藤色の着物、異様に白い肌色に差された紅、少しほつれた長い黒髪、そして、呪術的な意図を感じる『百』と書かれた布の面……掌サイズの妙に色っぽい女がこちらを見上げていた。
「あぁ…お前さんは、元・格闘部の毒……モモコだったか?」
「そんな小娘みたいな名前、よしておくんなさいよぉ!お百って呼んでくださいって!」
毒百足の化生であるその女は照れて、びしばしと蘇芳の脛の辺りを叩いた。
蘇芳は無言で脛をさすりながら、女の隣に腰掛ける。
「で、お百……お前さん、こんな所で何を?」
まさか会社関係者に会うとはおもわなんだ、と蘇芳が呟く。
「アタシは傷心旅行って奴で、いい男を捜してるんですヨ♪」
ちょいと前までパンダの旦那も一緒にいたんだよ、とのモモコの言葉に、やっぱり港で見かけたパンダは彼だったのか、と蘇芳は納得する。
「って、旦那こそ……片目どうしちゃったんだい?アンタ本当に顧問の旦那だよねェ?」
「そりゃそうさ。片目がなくとも俺様は俺様だ。」
「でも、旦那は確か……」
「桜の木に囚われているはずじゃないのかってか?」
モモコの疑問を受けて苦笑する。
彼女の両目は面に隠れて見えずとも、訝しげに小首をかしげる仕草で、何故自分がここにいるのかを不思議がっているのはよくわかる。
「まぁ、大人の事情って奴でね、此処にいる。」
「おや、じゃあ、奥さんも此処に居るのかい?」
「いや、残念ながら居ない。って言うか、逢えない条件で俺様は此処に居るんだよ……だから、知らせてもいない。」
「逢えないって…旦那、アンタ、大変だネェ。だって、超ベタ惚れだったじゃないか。大丈夫かい?」
モモコの言葉に首をすくめる。
「じゃあ、双子のお坊ちゃんやお嬢ちゃんとも…お子さん達とも逢えないのかい?」
「……子供……」
蘇芳は少しだけ金の猫目を眇める。
――そうだ、あの時、破璃は身ごもっていたはずだ。
子供達が、生まれてくるのを楽しみにしてた……名前も付けた。
囚われていた時、まどろみの中、破璃が子供達と訪れたような気はする。
ただ、全てが夢の中の出来事のようで、実感がまるでないのだけれども。
「そういう縛りはなかったから、逢えない事はないのかなァ?」
蘇芳は暗い紅い髪をかき混ぜながら応える。
「でも、どのツラ下げて逢ったらいいかわからんから……今は逢えんなァ。」
「……二人とも、もうモノの道理はよくわかる年頃だよ。人の子の年にしたら、18か19だろうしネェ。」
「へぇ、もうそんなに経つか……ずっと半覚醒みたいな状態だったから、時間の感覚が狂ってるな。」
「お嬢ちゃんはやたら喧嘩っ早い娘でネ、お坊ちゃんは旦那に似てイイ男だよ。旦那よりもイイ男かもしれないネェ。」
モモコは煙管を口元に持っていきながら微笑む。
「奥さんは相変わらず別嬪さんだよ。旦那と結婚したセイかね、年の取り方が若干遅いみたいだネェ……」
いつまでも若いのはいい事だよ、と言いながら、モモコは煙を吐き出す。
だが、蘇芳の表情は若干曇る。
――彼女と同じ人間になりたいと願った代償に、彼女は人間の枠をはみ出てしまったのだろか?
他愛もない話を、そのあと少しした。
そうしてモモコは、旦那といるとイイ男が見付からないから、と言って去っていった。
蘇芳はその後も岩に腰掛けたままだった。
――日が暮れかかった頃、心配して探しにきたセツリに声をかけられるまで。
<その後の『モモコ』はE-No.892で…>
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