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――蘇芳って、私の前では煙草吸わないよね。どうして?
蘇芳は煙草に火をつけながら、まだ破璃が妻ではなかった頃の言葉を思い出す。
元々、嗜む程度にしか煙草は吸わない。
そして、吸うのは、彼女が傍にいない時……決まって、独りでぼんやりしてる時だ。
紅い悪魔は独りでいる事には慣れていた。
妻の前世と出会い、そして死に別れ、生まれ変わった彼女に出会うまで、誰にも寄り添う事は無かった。
気の遠くなるほどの年月も、彼女と再び出会えると信じていたから、平気だった。
ニコチン中毒は、悪魔である彼にとって意味がなかった。
常習性なんてもちろんなかった。
それでも、自然と煙草に手が伸びる事があった。
子供騙しな精神安定剤でも、無いよりマシだと思っていた。
あの時は何と言ったんだっけ…。
ぼんやりと立ち昇る紫煙を見つめながら、紅い悪魔は記憶辿る。
その時。
「ねェ、そこのオニイサン」
横から、黒髪の女が現れた。
「あ?」
声をかけられたのとほぼ同時に、相手にガッチリと肩を掴まれる。
物凄い力だ。
何事かと眉をひそめた蘇芳に、黒髪の女は切羽詰った声で告げた。
「ちょっと火、貸してくれる?」
――数分後。
「はー…助かったわ、ありがとね」
よっぽど禁断症状がでていたのか、実に美味そうだ。
蘇芳は呆れたように肩をすくめた。
火を貸しついでに女を観察する。
まず一番最初に気がつくのは、女にしてはガタイが良いということ。
ヒールを履いてるとはいえ、190cm前後の自分と目線がホボ一緒と言うのは、もともとの身長が高いのだろう。
そして、長い黒髪、深緑の瞳、整った顔立ち、背中の黒い翼、堂に入った煙草を燻らす姿………ん?
よくよく見ると、どこかで見た事があるような……。
蘇芳は首を傾げて女を見た。
「なぁ、お前さん…」
「何?」
訝しげな表情でこちらを見る女。
……やっぱり似ている。他人の空似とは思えない。
「以前会ったことなかったか?……前は確か、火傷の痕が…」
その言葉に、煙草を口に持っていこうとしていた女の手が止まった。
深緑の瞳が瞬きもせず、蘇芳を見つめる。
そして、微笑んで彼女は言った。
「……ウチの不肖の従弟を、ご存知?」
「……従弟?!」
何の因果か。
腐れ縁な友人の身内の…従姉と、こんな辺鄙な島で出会うとは。
世の中とは狭いものだ。
旅の道連れとするにはうってつけじゃないか?
金の猫目を愉快そうに細め、蘇芳はタバコを揉み消した。
――数十分後。
3人目の同行者である怪しげな忍者と、何故か意気投合した彼らは、宝探しのスタートをきることになった。
黒翼の女―セツリ―から豪快に背中を叩かれ、つんのめった忍者―ネロ―を見ながら、紅い悪魔は微笑む。
「……あ、思いだした。」
突然、ぽんと手を打った。
振り返った二人に、何でもないと、悪魔は軽く首を振った。
――破璃がいる時は寂しくないから。
そう言ったんだ。