七夕の夜

その夜、紅い悪魔は夢を見た。

新婚の頃、妻と見かけた七夕の笹飾り。
繋いだ手を少しだけ引いて、妻が立ち止まった。
そして、何気なく呟かれた妻の言葉。

『子供が出来たら、ウチにも笹飾りたいな。』

それを聞いて、悪魔は思った。
もう独りじゃないんだなと、ぼんやり思った。

これからは妻と二人、ずっと一緒。
子供が出来て、孫が出来て……自分達二人の血を受け継ぐ流れができる。

そうして絆は永遠のものになる。
いつか、二人を死が別ちても。

 

ずっと、一緒。
なんて幸せな響きなんだろう。

 

悪魔は、妻と繋いだ手に軽く力を込める。
悪魔は、この幸せが少しでも長く続きますようにと、星空に願いながら。

 

――その願いは叶えられず。

そして再びめぐった七夕の夜。
離れた恋人達がめぐり合える唯一の日に、悪魔は妻に出会うことは出来なかった。

けれど、妻の夢を見ることは出来た。
少しだけ幸せな夢を見ることが出来た。